研究者にとって、自分たちの研究に人々の注目を集め、その成果を共有し議論し合うこと、また自分たちの専門分野の最新動向を把握することは、常に重要な課題です。最近では多くの研究者が、インフォグラフィックスやビデオ、その他の拡張パブリケーションと呼ばれる形態を使い、ソーシャルメディアを通じて自分たちの研究を発信するようになりましたが、学術集会などで他の研究者たちと直接話し合う従来の発表方法の利点も過小評価すべきではありません。
研究者にとって、自分たちの研究に人々の注目を集め、その成果を共有し議論し合うこと、また自分たちの専門分野の最新動向を把握することは、常に重要な課題です。最近では多くの研究者が、インフォグラフィックスやビデオ、その他の拡張パブリケーションと呼ばれる形態を使い、ソーシャルメディアを通じて自分たちの研究を発信するようになりましたが、学術集会などで他の研究者たちと直接話し合う従来の発表方法の利点も過小評価すべきではありません。
特に学術集会でのポスター発表は、自分たちの研究を他者に知ってもらい、そして研究者同士でリアルタイムに交流することができる絶好の機会です。集会の形態がバーチャル(オンライン)会議やハイブリッド会議へと発展し、また対面式会議の開催が復活したことにより、ポスター発表のやり方は多様化しています。
この特集記事では、まず、ポスター発表とはどういうものなのか、ポスター発表にはどのような利益があるのか、そしてどのような場合にポスター発表を行うのが最適なのかを考えます。それをもとに、効果的なポスターの作成と専門家らしい発表について、具体的なヒントや留意すべき重要ポイントを網羅的にご紹介します。
ポスター発表には従来の口頭発表と類似する点がありますが、いくつかの重要な違いがあります。まず明らかな違いは、発表に使用されるのがスライドではなくポスターであるということです。ポスターは、テキストや、図表、グラフ、その他の視覚的補助を用いて、研究結果を簡潔にかつ大きく視覚的に表現したものです。つまりポスターは、何の研究であるかを一目で伝えると同時に、その研究結果がどのようにして得られ、分野にどのような貢献をするのかがすぐに理解できるように、綿密かつ明確なものでなければなりません。
ポスターの形態には、学術集会のポスター会場に実際に展示される物理的なポスターと、学会のウェブサイトに掲載されるバーチャル(デジタル)ポスターがあります。また、発表者がポスターに書かれた内容を参照しながら説明をするだけでなく、発表の前後にポスターを公開し、他の研究者が空き時間に自由に閲覧できるようにすることもあります。
口頭発表とポスター発表の決定的な違いは、その発表のやり方にあります。発表者と聴衆の関わり方を考えると、通常、質疑応答のための時間が最後に設けられる「純粋な」口頭発表に比べて、ポスター発表ではよりディスカッションに近いやり取りが行われます。ポスター発表を行うときには、ポスターに書かれた内容を説明している際中に、聴衆から質問やコメントを受けることを想定して準備するとよいでしょう。むしろ、ポスター会場に集まった研究者たちと話をしながら、自分たちの研究について質問やコメントを引き出すように促すとよいでしょう。
ポスター発表にはいくつかの異なる形式がありますが、大会プログラムの中に特定の時間枠が設けられ、その間に発表者がポスターのそばに立ち(またはオンラインセッションに参加し)、自分の研究について話をするのが一般的です。このポスターセッション(またはバーチャルポスターセッション)は、発表者が発表中や発表終了後に来訪者と交流できる機会となります。割り当てられた時間内に多くの人がポスターを見に訪れるので、何度でも繰り返せるような短い説明を準備しておく必要があるでしょう。
自分が発表をしないときには、他のポスターを見て回ったり、聴衆の一人としてポスター発表に参加したり、来場者とネットワーキングをしたりできるので、名刺を用意しておくとよいでしょう。関連する研究を行っている人や、自分たちの研究に興味を示す人に出会う好機にもなりうるので、自分たちのポスター(またはその要点の抜粋)を小さくプリントアウトして配布できるようにしておくのもよいかもしれません。
大規模な学術集会、特に国際学会で注目を集めるには、他の発表者と競合しなければならないことを意識しましょう。そのような会議では数多くのポスターが展示されるでしょうし、分野のエキスパートである発表者のポスターに人気が集まるかもしれません。また、自分たちを含む海外からの参加者は時差ぼけで疲れている可能性があり、会場が騒がしかったり、照明が良くなかったりと、注意力を削ぐようなことがあるかもしれません。したがって、そのような環境の中でも自分たちのポスターがひときわ目立つようにすることが重要です。
研究の結果を、論文としてジャーナルに投稿する前、投稿中、掲載された後のどのタイミングで発表すべきかどうかについては、発表の目的と出版倫理への配慮が大きく左右します。
投稿前:研究結果をできるだけ早く広めることがより重要な場合(例えば、ある技術分野での優先順位を確立するため、あるいは研究結果がすぐに役立つ場合など)は、研究論文をジャーナルに投稿する前に発表を行うことを検討してもよいでしょう。これは、ポスターの来訪者からのフィードバックに基づいて研究内容や研究論文を微調整するのにも役立ちます。通常、ジャーナルはポスター発表をprior publication(先行して公表されたもの)とはみなしませんが、自分たちの論文を投稿しようと思っているジャーナルの実際のガイドラインを調べて、何がprior publicationにあたるかを確認してください。いずれにせよ、論文を投稿する際に過去に発表した内容の全部または一部をジャーナル編集者に伝えることは、良い出版慣行とされています。
投稿中または掲載後:公表済みの論文についてポスター発表を行うことは、今後の研究の方向性についてのアイデアを得るための素晴らしい方法です。また、自分たちの研究を他の人に知ってもらうことで、研究の裾野が広がることにも役立ちます。これは、自分たちの研究に基づいて人々の考え方や行動を変える可能性があるだけでなく、その研究を他の人が引用する可能性が高まるからであり、それにより研究の影響力が大きくなることは、キャリア形成にとって重要です。ただしこの場合、出版倫理、特に著作権規則を慎重に考慮する必要があることに注意してください。出版規範委員会(COPE)からの詳細なアドバイスにあるように、ジャーナルのガイドラインと出版契約の内容を確認し、どのような形での発表が許可されているかいないかを確認しましょう。さらに、学術集会のガイドラインで、公表済みの論文(または掲載予定の論文)を発表することが認められているかどうかについても確認してください。
ポスターの作成に取り掛かる前に学術集会のガイドラインを必ず読み、ポスターの寸法、配信方法、発表時間、著作権に関する指示に従ってください。同じ発表を別のイベントで再度行うこと(アンコール発表)が可能かどうかについても規定があるかもしれません。例えば、英語で行ったポスター発表を別のイベントで日本語で行う場合は、アンコール発表が認められることがあります。また、前述のように、論文を投稿したいと考えているジャーナル、またはすでに論文が掲載されているジャーナルにポスター発表と同じ研究結果を発表できるかどうか、できる場合はそのルールについて再確認してください。
自分たちの研究を効果的に宣伝・説明する、魅力的で専門家らしいポスターを作るためには、以下の点を考慮しましょう。
最初のステップとして、希望する学術集会のガイドラインを必ず確認し、具体的な指示や提供されているテンプレートがあればそれに従ってください。ただし、よくわからない場合は、以下の点に注意しましょう。
多くの場合、ポスターには科学論文の標準的なIMRAD(Introduction、Methods、Results、Discussion)構造が用いられます。近年みられる#betterposterムーブベントでは、周囲に小さな情報を配置し主要なメッセージを目立たせて人々の注目を引き、それと一緒に表示した大きなQRコードから詳細情報にアクセスするよう誘導するポスターを提唱しています。この#betterposterムーブメントについてはこちらをご覧ください。
どのようにポスターをデザインするかにかかわらず、ポスターには批判的思考と科学的推論が示されなければなりません。タイトルに続いて、著者情報、研究の背景、何を行ったかの簡単な説明、そして重要な結果を述べ、結論において研究の意義を強調します。研究の種類や分野によっては、倫理に関する記述や謝辞を加える必要があるかもしれません。ポスターは通常、最も重要な参考文献の簡潔なリストで締めくくられます。発表者の連絡先(通常はEメールで構いませんが、ここでもQRコードが役立ちます)を記載してもよいでしょう。
学術集会のガイドラインでは通常、ポスターとは別にアブストラクトの提出が求められますので、ポスター自体にアブストラクトを含める必要はありません。このアブストラクトは大会の小冊子に印刷され、参加者がポスター発表を見るかどうかを決める際の参考資料になります。
ポスター発表と口頭発表にはいくつかの決定的な違いがあることを覚えておくことは重要ですが、共通する考慮すべき点もたくさんあります(口頭発表を取り上げた過去の特集記事は、こちら、こちら、こちら)、なかでも難しい質疑応答への対処法を取り上げた記事はこちらをご覧ください。)
ここでは特にポスター発表についての重要なヒントをいくつか見ていきましょう。
ポスター発表は、口頭発表と同様に、研究の認知度を高め、研究の成果を迅速かつ広く公開するための効果的なツールです。しかし、ポスター発表のユニークさは、オープンな議論やフィードバックがリアルタイムで行われる点にあります。ポスターを作成し、発表の準備をするのは大変ですが、ポスター発表には多くの利点があるのです。この特集記事でご紹介したヒントが皆さんのお役に立てば幸いです。
もちろん、ポスター発表のサポートを必要とされる方は、ThinkSCIENCEの翻訳者、エディター、ライターのチームが喜んでお手伝します。ポスターを学術集会のガイドラインや要件に合わせる必要がある、ポスター用の魅力的なグラフィックを作成したい、研究をわかりやすく要約したい、ポスター発表そのものを一から準備する必要があるなど、さまざまなニーズに対応します。ご希望の方はこちらよりご連絡ください。初めてのポスター発表や重要な発表を控えていらっしゃる方で、個別のサポートを必要とされる場合は、自信を持って発表に臨めるようにパーソナルコーチングセッションも行っていますの、ぜひご利用ください。