近年のテクノロジーの進歩とソーシャルメディアの普及により、学術出版を取り巻く環境は急速に進化しています。読者が科学コンテンツを見つけ、消費する方法が変化するのに伴い、学術出版社、ジャーナル、学会の多くが、研究成果のスナップショットを素早く発信する新しい形態を導入するようになりました。「拡張パブリケーション」または「拡張コンテンツ」と呼ばれるこの新たな形態は、従来のジャーナルや学会の論文を補足・補完する役割を果たしています。この拡張コンテンツは、研究成果を迅速かつ明瞭に要約することを目的とするだけでなく、様々なメディアを通じて多くの専門家、非専門家、さらには一般の読者の注目を集めることができるように、複数の形式が考案されています。

研究論文はその分野の研究者に有用な情報を提供することはもとより、より幅広い読者にも新たな知見をもたらすものとなり得ます。学際的、分野横断的な研究が増加し、一般の人々が科学論文に容易にアクセスできるようにもなってきました。そのような状況の中、自分たちの研究に興味を持ち、研究から恩恵を受け得るより多くの人々にアプローチするチャンスを、私たちは手にしていると言えるでしょう。しかしそれは、人々の注意を引くために厳しい競争に勝たなければならないことも意味しています。

拡張コンテンツの作成は、様々なルートを通じて読者の注目を集め、研究のインパクトを高める方法として有用です。

拡張パブリケーションに馴染みがない方や、投稿予定の論文のインパクトを高めるのに役立つものかどうか定かではないという方もいらっしゃるでしょう。そこで、この特集記事では拡張パブリケーションについて簡潔に説明し、その作成に関する実践的なヒントをご紹介します。

研究論文をサポートする拡張パブリケーションには、グラフィカルアブストラクト、ビデオアブストラクト、インフォグラフィック、プレーンランゲージサマリー、レイサマリー、さらにはポッドキャストなどがあります。

例えば、ジャーナルの中には論文の著者にグラフィカルアブストラクトの提出を求め、それをソーシャルメディアで共有したり、表紙画像として掲載したりするところがありますが、それは掲載論文に人々の目を向けさせ、論文のインパクトを高めることが目的です。また、より幅広い読者に研究の価値を理解してもらえるよう、平易な言葉で書かれたプレーンランゲージサマリーの提出を求めるジャーナルもあります。読者のエンゲージメントを促し、研究のインパクトを高めるために、何らかの拡張コンテンツを提供するよう著者に奨励するジャーナルが一般的になってきました。

こうした拡張パブリケーションの多くは比較的新しいものであるため、正確さと注目されやすさの両方を兼ね備えた効果的な拡張コンテンツを作成することは容易ではないでしょう。以下では、様々な形の拡張パブリケーションについて説明し、作成のヒントもご紹介します。これらの情報がお役に立てば幸いです。

• グラフィカル（視覚的）アブストラクト
• ビデオアブストラクト
• インフォグラフィック
• プレーンランゲージサマリーおよびレイサマリー

グラフィカルアブストラクト（またはビジュアルアブストラクト）は、著者の最も重要なメッセージ（多くの場合、主要な研究結果）を素早く伝える1枚の画像です。ジャーナルの目次やソーシャルメディアで目にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。

グラフィカルアブストラクトを利用すると、論文への年間エンゲージメントが有意に上昇することが示されています。例えば、2020年にJournal of Plastic Reconstructive & Aesthetic Surgeryに掲載された研究論文によると、ビジュアルアブストラクトやインフォグラフィックが付随した論文は、そのような拡張コンテンツがない論文と比較して、被引用数が2倍になる可能性が示されています。

グラフィカルアブストラクトは、一目でわかりやすく、読者を惹きつけ、さらに詳しく知りたいと思わせるものでなければなりません。そのようにうまく作成されたグラフィカルアブストラクトは研究結果をより理解しやすく魅力的なものにし、学術コミュニティにおける研究のインパクトと存在感を増大させることにつながります。

グラフィカルアブストラクトを作成する際には、デザイン要素を慎重に検討し、伝えるべき主要メッセージを明確にしておく必要があります。

• 作成を始める前に、投稿予定のジャーナルおよび出版物の要件や関連するガイドラインを頭に入れておきましょう。グラフィカルアブストラクト固有の書式指定やデザインガイドラインを持つジャーナルもありますので、グラフィックを作成する前に必ず確認してください。研究論文に使用した図の1つを選んでグラフィカルアブストラクトとして利用する著者が多くいますが、それが適しているかどうかをよく考える必要があります。論文の中の図は特定の結果を示していることが多く、研究内容や結果についてもう少し全体的な概要を示すものの方が良い場合もあるでしょう。グラフィカルアブストラクトのサイズや書体などの要件を図の要件よりも厳しく設定しているジャーナルや、論文に使った図をグラフィカルアブストラクトとして使用することを認めないジャーナルもあるので、注意が必要です。
• 「読者は誰なのか」をよく考えましょう。読者はその分野の専門家なのか、科学コミュニティ全般なのか、それとも一般の人々なのでしょうか？また、グラフィカルアブストラクトがどのように配布されるかも考えましょう。グラフィカルアブストラクトを論文タイトルと通常のアブストラクトと一緒に目次に掲載するジャーナルもあれば、掲載論文をソーシャルメディアで宣伝するためにグラフィカルアブストラクトを単独で使用するジャーナルもあります。誰がどのようにグラフィカルアブストラクトを目にするのかを知ると、高度に専門的な内容のものを使用すべきかどうかが判断しやすくなります。
• グラフィカルアブストラクトの大まかなレイアウトを決めましょう。グラフィカルアブストラクトは、分野、読者、共有すべき情報の種類に応じて、ダイアグラムとして、またはインフォグラフィックやコミックのスタイルで作成することができます。多くのテンプレートやサンプルが簡単に入手可能で、ElsevierやCell Pressなどの出版社から提供されているものや、BioRenderなどの図作成ツールに含まれるものなどがあります。他にも、Mind the Graphはテンプレートと科学的に正確な何千ものイラストを提供する便利なリソースです。無料ユーザーは生成した画像を使用する際にMind the Graphを引用する必要がありますが、有料ユーザーは引用なしで自由に使用することができます。
• ポイント（主要な結果や示唆）を１つに絞り、それに焦点を当てることで研究の独創性と価値を際立たせましょう。
• 内容をよりよく伝えるために戦略的に色を使いましょう。使用する色数を増やさず2、3色に決めて、まとまりと一貫性を持たせます。変化や違いを強調するために補色や対照色を使うことは有効でしょう。
• 情報の配置には、上から下、または左から右のシンプルな流れを適用しましょう。グラフィカルアブストラクトには明確な始まりと終わりがあるべきです。必要であれば、読者の視線を誘導するために矢印を使ってもよいでしょう。循環プロセスを論じているのであれば、円形のフローチャートのようなグラフィカルアブストラクトを作成してもよいでしょう。
• テキストは控えめに使いましょう。グラフィカルアブストラクトは一目ですぐに理解できるものでなければならないことを忘れないでください。アイコンやシンボルはテキストよりも視覚に訴えて読者の理解を助けるので、重要な概念や結果を表すのに用いるとよいでしょう。例えば、「増加」や「抑制」という言葉の代わりに矢印を使うと効果的です。ただし、世界中の読者が理解できるアイコンを必ず使い、過度に複雑なシンボルや抽象的なシンボルの使用は避けましょう。
• 何よりも明瞭さを一番に考えましょう。
  • 読みやすいテキストの使用を心がけましょう。サンセリフ（san serif）系の書体を使い、フォントは読みやすい大きさにします（例えば、読者はスマートフォンでグラフィカルアブストラクトを見るかもしれません）。テキストには網掛けなどの不要な効果を加えないでください。
  • 区分、グループ分け、階層を明確に示し、重要なポイントを強調するために空白をうまく利用しましょう。グラフィック内のスペースをすべて埋め尽くそうとすると、画像が過密になりすぎて要点がぼやけてしまうので避けるべきです。

その名が示すように、ビデオアブストラクトは、研究の最も重要なメッセージを提示する短い動画です。ビデオアブストラクトは「映画の予告編」のようなものだと考えてください。その中では、研究で答えを見出そうとしている問題、これまでに行ったこと、そして何が結論なのかを明確に伝える必要がありますが、ビデオを見た人がもっと知りたい、論文の全文を読みたいと思わせる余地を残すことが肝心です。

ビデオアブストラクトはまだ、グラフィカルアブストラクトほど提出を求められるものではありませんが、少なくとも著者が投稿時に動画をアップロードする選択肢を設けるジャーナルは増えています。また、ビデオアブストラクト付きの論文は被引用数が増える可能性を示唆した研究もあります。例えば、Scientometricsに掲載された2019年の論文によると、ビデオアブストラクトを含む論文は、含まない論文よりも被引用数が1.206倍多かったことが報告されています。

ビデオアブストラクトの作成には、グラフィカルアブストラクトを作成する際に考慮すべきことの多くが当てはまります。特に、誰がどこで見るのかを考えることは、ここでも重要です。しかし、動画のフォーマットに関する以下の点に留意しなければなりません。

• ジャーナルのガイドラインを意識しながら、短くまとめましょう。例えば、Taylor & Francisでは、ビデオアブストラクトの長さを2分20秒以内に収めることを推奨しています。
• ビデオの長さを考慮に入れ、できるだけ早い時点（PLOSのビデオアブストラク作成のヒントによると、可能であれば最初の7秒以内）で、視聴者の関心を引き付けるようにしましょう。
• ストーリーを語ることを意識しましょう。物語のように、つまり、画像や質問から始め、研究の目的から結果、結論へと視聴者を導くように、ビデオを構成します。
• 行動を促すコール・トゥ・アクション（CTA）を取り入れましょう。ビデオアブストラクトを見た後、視聴者には何をしてもらいたいでしょうか？例えば、「論文を読む」「論文をダウンロードする」「著者へ詳細を問い合わせる」といったCTAの文言を入れ、視聴者に次の行動を促します。視聴者がどこでどのように研究に関わることができるのかが明確にわかるように指示を与えましょう（例えば、ジャーナルウェブサイトの研究論文へのリンクを含めるなど）。
• テキストの代わりに視覚情報を使いましょう。グラフィカルアブストラクトと同様に、ビデオではテキストの使用を最小限に抑え、代わりに画像や図表などの視覚的補助を用いて説明するように心掛けましょう。
• 平易な言葉を使いましょう。専門用語や特殊用語は避け（高度な専門用語を用いる場合は少なくとも定義付けが必要）、一般の人々に向けて簡潔明瞭な言葉を使用します。より幅広い読者を惹きつけるために、実例を使うかどうかを検討しましょう。

インフォグラフィックとは、情報やデータを視覚的に表したもので、複雑なアイデアを簡潔かつ人を惹きつけるような方法で提示します。インフォグラフィックはマーケティングで広く使われており、ウェブサイトのトラフィックを最大12％増加させることが示されています。学術研究においては、重要な研究結果を広く周知する強力なツールになり得ます。

効果的なインフォグラフィックは、テキストではなく画像やシンボルを利用して情報を伝えます。一目で理解できるようにし、最も重要な情報や統計データのみを含めるようにします。その目的は、人々の興味を引く主要な情報を簡潔に伝え、その後読者が論文全文を読むように促すことにあります。

インフォグラフィックは、ソーシャルメディアなどのプラットフォームを通じて研究について周知し、閲覧を促すのに適していますが、ジャーナルの中には論文と一緒に掲載することを著者に認めているものもあります。例えば、Sage Publicationsは、研究論文に付随するインフォグラフィックの作成と投稿の方法について著者にアドバイスを与えています。

インフォグラフィックの利用とエンゲージメントの間には明確な相関関係があることが複数の研究により示されています。例えば、インフォグラフィックと研究論文を分析した研究では、対照の研究論文よりもインフォグラフィックの方が、ソーシャルメディアでの注目度を示す指標であるAltmetric Attention Scoreが約5倍高いことが判明しています。さらに、BMC Medical Educationに掲載された医療従事者、研究者、学者、および一般市民を対象とした2022年の調査では、インフォグラフィックは研究内容を人々に伝え、研究に対する認識や関心を高めるのに有用なツールであるとの報告が90％以上を占めており、インフォグラフィックの利点が立証されました。

• ストーリーボードを作成しましょう。インフォグラフィックの内容を説明するタイトルを考えます。研究の目的と背景を明確に述べ、アプローチ、主要な結果、その考え得る影響を説明します。
• 明確な階層や流れを作りましょう。明確な方向性を持って（通常は上から下へ）情報を配置します。ヘッダーやテキストには一貫性のあるスタイルを用い、同等に重要な情報や対照的なアイデアであることがすぐに理解できるようにします。
• アイデアやポイントをグループやセクションに明確に分けましょう。1つの大きな画像の中に複数のミニ・インフォグラフィックを使うことをためらう必要はありません。主要な結果に3つの同等に重要なポイントが含まれる場合は、これらを3つのセクションに分け、1つずつ重ねるように配置してもよいでしょう。
• 色を利用して意味を伝えましょう。似ているものは同じ色を使い、対照的なものは反対色を使います。ただし、インフォグラフィック内の色数は2～3色に抑えるようにし、わかりやすさを心掛けましょう。
• テキストの使用は最小限に抑え、簡潔さを維持しましょう。
  • テキストは可能な限り画像やアイコン、矢印などの記号に置き換えます。
  • サイズの大小で大きさや程度を表します。例えば、アイコンを大きくすると、成長を表すことができます。
  • テキストが必要な場合は、できるだけ簡潔にします。多くの場合、完全な文章よりもキーワードを使う方が有用です。
• CanvaやPiktochartなど、インフォグラフィックを作成するためのオンラインツールがたくさんあります。Mind the Graphにもインフォグラフィックのテンプレートが多数用意されています。

プレーンランゲージサマリーとレイサマリーは、どちらも専門家ではない人向けに平易で理解しやすい言葉で書かれた研究の要約のことです。これらの用語は同じ意味で使われることが多いのですが、実際には異なります。

プレーンランゲージサマリーは、特定の読者（通常は、特定の分野の専門家ではない人々）に向けて書かれるものです。プレーンランゲージサマリーの目的は、複雑な情報を、理解しやすく、幅広い読者に受け入れられるように提示することです。

レイサマリーは一般大衆向けに、プレーンランゲージサマリーよりもさらに短く簡単に書かれたものです。製品、サービス、イベントに関する情報を伝えるために用いられることが多く、マーケティング資料やプレスリリース、その他の広報資料でよく見かけます。研究結果、特に臨床試験に関する情報の発信において重要な役割を担っています。

プレーンランゲージサマリーとレイサマリーの両方が有用なのは、複雑な情報を素早くかつ容易に理解するのに役立つからです。情報を明確かつ簡潔に提示することによって、読者が十分な情報を得た上で意思決定を行い、適切な行動を取ることを助けます。

幅広い分野のジャーナルが、これらのサマリーを通じて、患者や一般の人々が研究を身近に感じ、理解できるようにすることを、著者に奨励するようになってきています。例えば、Elsevierが発行するジャーナルのうち、Epilepsy & Behavior Case Reports、International Journal of Paleopathology、Journal of Archaeological Science: Reports、Journal of Hepatologyなどが、投稿論文にレイサマリーを含めることを推奨しています。

プレーンランゲージサマリーとレイサマリーを作成する際には、読者を念頭に置くことが重要です。どちらのタイプのサマリーも、専門家でなければ理解しにくい専門用語や複雑な文章構造を避け、平易な言葉を用いて書くべきです。また、最も重要な情報に焦点を当て、それを理解しやすい形で提示することも重要です。

• プレーンランゲージサマリーの場合は特に、研究の要点を伝えるのに十分な情報を盛り込むことが重要ですが、情報を詰めすぎて読者が圧倒されたり、読みやすさが損なわれたりしないように加減する必要があります。
• レイサマリーの場合は簡潔に要点をまとめ、説明する製品やサービスの主な利点や特徴を強調するようにします。

どちらのタイプのサマリーも正確で信頼できるものであるべきです。誤解を招くようなサマリーや不完全なサマリーは読者を混乱させ、害を及ぼすことさえ起こり得るため、十分に注意を払って作成することが重要です。

著者は、ジャーナルが設けた制限、特に長さに関する制限に留意しなければなりません。Cochrane、Sage Publications、Elsevierなどの多くのジャーナルや出版社が、これらのサマリーのガイダンスやテンプレートを提供しています。加えて、Sage社の様々なジャーナルに掲載されているレイサマリーを実例として見てみるのもよいでしょう。

これらのサマリーは、簡潔で、わかりやすく、正確で、信頼できるものでなければならず、これらの要素のバランスをとることが重要です。以下の考慮すべきポイントは、プレーンランゲージサマリーとレイサマリーの両方に当てはまります。

• サマリーは理解しやすいものでなければなりませんが、重要なポイントを単純化しすぎて、読者が誤った理解をしてしまうようなことがあってはいけません。読者の英語力には個人差があることを念頭に置き、過度に複雑な語句や文法を用いないようにしましょう。読者が、書かれた言語にではなく、科学的なメッセージに集中できることが重要です。
• サマリーは簡潔であるべきです。ジャーナルが設定した制限内で、読者がどのようにアクセスするかを念頭に置いて作成しましょう。研究の目的、実施理由、用いた方法、結果、そして（適切であれば）研究者とその背景など、研究の重要な側面を記述します。
• サマリーには専門用語を使用すべきではありません。上記のポイント1に関連しますが、プレーンランゲージサマリー、特にレイサマリーは、平易な言葉で書くべきです。専門用語の使用が必要または有用な場合は、できるだけ明確かつ簡潔に説明を加えましょう。
• サマリーは研究の妥当性を伝えるものであるべきです。研究の背景を説明し、その分野への影響を記述します。どのような読者がサマリーを読むのか、読者はどのように研究に興味を持ち、サマリーを読むことでどのような価値を得るのかをよく意識して書くとよいでしょう。

私たちの多くが読者（または視聴者）の注目を集めようと競い合う中、研究のインパクトを高めるのに有効な拡張パブリケーションの人気は今後も高まり続けるでしょう。この特集記事が、皆さんが自分の研究論文の拡張パブリケーションを作成することに価値があるかどうかを判断し、またどのように作成するかを決める際の一助になれば幸いです。

ThinkSCIENCEはすでに多くの著者の方々をサポートし、拡張コンテンツの考案、作成、編集、翻訳を行っています。拡張コンテンツに関する質問がある方や作成指導が必要な方をThinkSCIENCEのエキスパートが喜んでお手伝いいたしますので、こちらまでお問い合わせください。