以前の特集で威厳を感じさせるようなライティングの重要性について取り上げましたが、ここでは自然なライティングについてお話しします。
第二言語でライティングするときの大きな課題は、文法が正しく意味が理解できる文章であっても、「ネイティブスピーカーの感じ(雰囲気)」に欠けることです。
今月の特集では、アカデミックエディターのknow-howに基づき、より自然な英文ライティングの助けとなる戦略的ヒントを、具体例を挙げながらご紹介します。
以前の特集で威厳を感じさせるようなライティングの重要性について取り上げましたが、ここでは自然なライティングについてお話しします。
第二言語でライティングするときの大きな課題は、文法が正しく意味が理解できる文章であっても、「ネイティブスピーカーの感じ(雰囲気)」に欠けることです。
今月の特集では、アカデミックエディターのknow-howに基づき、より自然な英文ライティングの助けとなる戦略的ヒントを、具体例を挙げながらご紹介します。
原稿を書くときに情報を整理してうまく組み立てる方法には様々なものがありますが、読者がよく知っている構造を用いて文章を書くと、文体がより自然に感じられるようになります。その一つが「トピック–センテンス(topic-sentence)」構造と呼ばれるものです。第一言語として英語を学ぶクラスで広く教えられ、アカデミックライティングでもよく用いられている手法ですので、多くの読者に文章の構造が認識されやすくなります。
この方法では、アイディアの概要から始めて、それから焦点を狭めていきます。英語以外の言語で書くときや、何かを説得するように書くときには、主題に向けて徐々に文章を構築していくほうが適切かもしれません。しかし、伝えるべきゴール(目標)がある場合の自然な英文ライティングは、もっと直接的です。各パラグラフの最初で、まず主題を述べます(これを「トピックセンテンス」または「フォーカスセンテンス」と呼びます)。これにより、読み手にコンテクスト(前後関係)を示し、なぜこのパラグラフに注意を払わなければならないかが示されます。トピックセンテンスに続く文章では、その主題についての詳細を述べ、それを支持するエビデンス、または相反するエビデンスを示します。英語を母国語とするかしないかによらず、何かを書くときには、読者をその先に引っ張っていくために何か「新しい」話題をパラグラフの最後に示すようにと教えられることが一般的です。しかしながら、研究論文を書くときなど、情報を伝えるためのライティングにおいては、パラグラフの最後で関連性のないことに言及すると、読者の注意をそらし、混乱させることになるので避けるべきです。むしろ、特に重要なパラグラフでは、筆者の論点を強調するため、既に示したトピックセンテンスにリンクするような文章を入れたほうがいいかもしれません。
パラグラフ全体を読んだ時に、文章間のつながりがスムーズであることも重要です。これには、「and」や「but」で文章をつなげたり、「therefore」などの論理的な移行を示す単語を取り入れるなどの方法があります。前後関係によって、移行を表すいろいろなタイプの表現を適切に使用することで、文章の流れがより自然になります。だからといって全ての文章の初めに転換語を入れてはいけません。たとえば、連続する4つの文章それぞれを「Moreover」「Additionally」「Furthermore」「Also」で始めるとぎこちなく感じられます。しかし、転換語が少なすぎると、今後は文章が細切れの印象になるので、バランスが重要です。
As for X(Xに関しては)
非ネイティブの学習者は、話題を変えるときに「as for X」という表現パターンを使うように教えられることが多いようです。しかしながら、このパターンは非常に唐突な感じがし、連続して何度も使用すると重苦しい感じになります。たとえば、このパターンを使用した「As for large cities, disease incidence was high, and for smaller towns it was moderate(大都市に関しては疾病発症率が高く、小都市に関しては中程度であった)」よりも、「Disease incidence was high in large cities and moderate in smaller towns(大都市では疾病発症率が高く、小都市では中程度だった)」のように、事実を簡潔に述べ、簡単な接続詞を用いたほうが受け入れられやすくなります。
Not only A, but also B(AのみならずBも)
「not only…, but also…」というフレーズは、非ネイティブの著者が二つの項目を提示する場合に使用するケースがよく見受けられます。このパターンには、「Aは当然期待されていたのに対して、Bはそうではなかった」というニュアンスがあるため、AとBの間の強い差異が生じることとなります。このような意味合いは、すべての状況に当てはまるものではないでしょう。
たとえば、「the treatment was effective in not only individuals with disease, but also healthy individuals(治療は疾病のある患者のみならず、健常人にも効果があった)と述べると、健常人には治療の影響があることが期待されていなかった意味合いが含まれます。これは真実かもしれません。しかし、「flu vaccination was effective in not only men, but also women(流感に対する予防接種は男性のみならず、女性にも効果があった)」という文章の場合は、ほかに情報がない限り、読者には治療の影響が男性と女性で異なることを推測する理由がないため、より不自然な文章となります。「vaccination was effective in men and women(予防接種は男性と女性に効果的であった)」という概念は、「and」を使うだけで十分伝達されます。
On the other hand,(他方で、)
「On the other hand」は、「On (the) one hand, … On the other hand, ….(一方で…。他方で…)」という一組の構文の片方です。この表現は、二つの並列関係にある項目の差異を強調するときに使用されます。しかしながら、非ネイティブの著者は、前半のフレーズを省略し、二つの項目の対比を示すために「on the other hand」を単独で使用することがよくあり、ときには文章から文章へ移行する目的のためにこのフレーズを使用することさえあります。
もし「on the other hand」を単独で使用していることに気づいたら、ほかへの言い換えを検討しましょう。「However」「although」のような転換語を使用した方がより自然な感じになります。
ワードプロセッサーのスペルチェック機能は、英語を第一言語とする著者にとっても非常に便利なツールです。しかし、ネイティブの著者には明らかに間違いだとわかるスペルミスをスペルチェック機能は見逃してしまうことが多々あります。さらに悪いことに、正しくない変更を示唆することさえあります。これは単語が名詞と動詞の両方の意味を持つ場合によく起こります。たとえば、次のようなタイプの間違いがよく見られます。
ここで「staff」という名詞は、従業員のグループという意味の不可算名詞です。したがって、複数形も「staff」です。一般的な英単語なので、ネイティブスピーカーのほとんどは間違うことがありません。しかしながら、「staff」は動詞でもあり、「She staffs the branch office with skilled workers(彼女は支所に熟練労働者を配置する)」のような文では「staffs」となります。ワードプロセッサーはこの単語の異なる使い方を見分けることができないため、このような間違いを警告することはないでしょう。よって、スペルチェッカーに頼らず、著者自身が注意深く文章を見て間違いを見つけ出さなければなりません。
同様に、文法チェッカーの使用にも注意が必要です。役に立つ機能ですが、常に正確であるわけではありません。
役立つコメント:前述の例文をワードでタイプすると、文法チェッカーが「their」に下線を引き、再チェックするようにコメントを出してくれるので、よく間違って使われる「they’re」ではなく、正しい「their」を使用していることを再確認することができます。
不必要なコメント:ワードプロセッサーの文法チェッカーは、書いたテキストの内容や種類に関係なく、以前の特集でライティングの俗説として取り上げたような決まりごとを過剰に応用して文章をチェックします。したがって、文法チェッカーは、著者の意見やターゲットとするライティングスタイルを無視した全く必要のない変更を示唆する可能性があります。次の例では、オリジナルの文章は全く問題なく、むしろ実際にはこのスタイルのライティングにおいては、「per」は「according to」よりもあまり一般的には使われません。文法チェッカーが示唆することは文法的に正しくないものではありませんが、示唆通りに変更してしまうと、文章の効果が減少しかねません。
正しくないコメント:最後に、文法チェッカーの示唆が、正しくないこともあります。次の例では、文法チェッカーは、「mathematical models」までが最初の節であることを検出できておらず、explainingの後にカンマを入れるように示唆しています。この示唆を鵜のみにして変更してしまうと、意図していたより具体的な説明をしている文章が「when explaining in a general sense(一般的に説明すると)」という意味に変わってしまうばかりでなく、文法的にも正しくない文章になってしまいます。
文法チェッカーには信頼性が低いという特性があるため、示唆を受け入れる前にそれが適切であるかをよく検討する必要があります。
「receive treatment」「greatly affect」のように、複数の単語を組み合わせて一つの概念を表すものを、連語と言い、このような単語の組み合わせを使うことによって、いろいろな意味を表現することができます。しかしながら、「自然に感じる」連語はいくぶん恣意的であり、従来の辞書には載っていないことが多いため、非ネイティブスピーカーにとっては正しい連語を見つけ出すことは困難です。
たとえば、「seek」「look for」「search for」は一般的な英語では同義です。それにもかかわらず「seek medical attention(診療を受ける[求める])」のみが自然に感じられます。同様に、「respond」と「answer」の意味は似ているにもかかわらず、「respond to treatment(治療に反応する)」は自然ですが、「answer to treatment」はそうではありません。おそらく、「look for medical attention」や「answer to treatment」などの不自然なフレーズをネイティブスピーカーは理解できるでしょうが、普通は組み合わせない言葉であるため、意味を解釈する必要があり、読者の焦点があなたの論点から離れてしまうことになりかねません。
ネイティブスピーカーが使用する連語は自然に感じられるものなので、ネイティブスピーカーの論文を読んで、連語の知識を深めましょう。
また、Oxford Collocations Dictionary for Students of English(英語を学ぶ学生のためのオックスフォード連語辞典)などのリソースで、よく使われる自然な単語の組み合わせのリストを見ることができます。
本特集でご提供するダウンロード可能なチェックリストには、よく使われる連語の間違いの例をご紹介していますので、確認してみてください。
上記に示したポイントを押さえると、正確で誤りのない文書を書くことだけでなく、より明確で自然な文章を作成する一助にもなるのではないかと思います。今回取り上げた問題の多くには、曖昧なところがなく全くもって正しい答えや、逆に悪い答えといった、単純なルールが存在する訳ではありません。その代わりに、ご自身の分野におけるライティングの慣習や決まり事とともに、自分が書こうとしている論文に何が必要かを注意深くよく考えることが重要です。
hinkSCIENCEのスペシャリストエディターが、皆様の英語論文がより自然な文体になるようにお手伝いをします。
自然なライティングには、ほかにも戦略的なヒントがたくさんあります。重要なトピックですので、これについてはまた別の機会にご紹介したいと思います。2017年も皆様の役に立つ特集をお届けしますので、楽しみにお待ちください。