十分な知識と経験を持った著者が書いた論文は、内容が明確で、スタイルに統一性があり、威厳のようなものを感じさせます。分野に精通する研究者は、文章にそのような威厳を感じると、最後まで興味を持って論文を読み進めます。
では、威厳のあるアカデミックライティングとは一体どのような特徴があるのでしょうか?また、どうすればそのような文章を書くことができるのでしょうか?
十分な知識と経験を持った著者が書いた論文は、内容が明確で、スタイルに統一性があり、威厳のようなものを感じさせます。分野に精通する研究者は、文章にそのような威厳を感じると、最後まで興味を持って論文を読み進めます。
では、威厳のあるアカデミックライティングとは一体どのような特徴があるのでしょうか?また、どうすればそのような文章を書くことができるのでしょうか?
長い時間をかけて専門分野の経験を積むにつれて知識がより深まると、当然ながら威厳のある文章を書けるようになります。しかし、適切なスタイルを用いれば、経験の有無にかかわらず、文章に威厳を感じさせることができます。これは、研究キャリアの初期の段階から論文を書いて発表しなければならない若手の研究者には朗報と言えるでしょう。自分の研究領域で慣習的に用いられるライティングスタイルを初期の段階から学べば、そのスタイルをすぐに自分のライティングに取り入れることができ、ひいては、研究コミュニティーの方々に論文が読まれる可能性を高め、引用されるチャンスを増やすことにもつながります。
この特集記事では、専門分野における研究キャリアを問わず、威厳があり信頼されうる論文を書くためのヒントをご紹介します。
以下の中に、ご存知のこと、あるいは既に実行していることはありますか?
これらはすべて、その知識をいったん身につければ簡単に応用することができ、自分のライティングにシステマティックに取り入れることができます。
一流ジャーナルに発表された対象分野の論文によく使われているフレーズを探し、ハイライトを付けましょう。
次にそのフレーズのコンテクストを考えてみましょう。たくさんの著者が、そのフレーズを使っていますか?異なる研究領域にも応用して使うことができますか?
複数のコンテクストの中で使われているフレーズ、あるいは複数の著者が使用しているフレーズは、その専門領域のスタンダードなフレーズであり、他の研究者に情報を伝えるときに用いると、そこに威厳と確実性が備わります。
スタンダードなフレーズやフォーマットの例を下記に示します。多くの領域で使われるものもありますし、数少ない特定の領域にのみ使われるものもあります。
スタンダードなフレーズ | |
Hitherto, we have accepted that… | Against this background, we hypothesized that… |
The aim of this study was to… | To investigate whether X was… |
Here, we report a case of… | Let us examine the case of… |
The methods for X were reported previously. Briefly,… | Thirty subjects (15 men, 15 women; mean age, 24.4 ± 3.5 years; range, 20-39 years)… |
X peaked at day 3 before decreasing thereafter. | No changes were observed in… |
There was a significant positive correlation between… | A tendency for X was evident from… |
To our delight, we obtained… | If X holds true, then… |
Given these findings, we suggest that… | It is a matter of concern that… |
This is the first time X has been demonstrated in… | It is reasonable to assume that… |
This study has some limitations. | Further studies of X are warranted. |
私たちが行うライティングワークショップの参加者からは、スタンダードなフレーズを使うとプレジャリズム(剽窃)に抵触することにならないか、というご質問をよく受けます。なぜなら、これらのフレーズはプレジャリズム検出ソフトで、出版済み論文との類似箇所として検出されることがあるからです。プレジャリズムとは、知的財産を引用元を正当に記載することなく、まったく同じあるいは同様の形で不正に流用することですが、スタンダードフレーズに、他者の知的財産に該当するようなものが含まれることはありません。検出ソフトの結果として示される類似性スコアは、論文のプレジャリズムの指標として必ずしも使われるべきものではなく、単なる目安でしかありません。よって、一致したテキストが意図的な流用なのか、それとも偶然による一致なのかを注意深く見極める必要があるのです。私たちの独自性チェックサービスは、お客様に代わり、検出ソフトの結果に基づいて、適切に原稿を修正するサービスです。ご興味のある方はお問い合わせください。
まず分野で用いられているスタイルを特定し、それから自分のライティングに取り入れる必要があります。以下のような手段によって、たくさんのルールの中から、どれを取り入れればよいかを知ることができます。
下記はThinkSCIENCEがよく使用するスタイルガイドの一覧です。
ACS American Chemical Society |
AMA American Medical Association |
APA American Psychological Association |
ACS Style Guide: Effective Communication of Scientific Information | AMA Manual of Style: A Guide for Authors and Editors | Publication Manual of the American Psychological Association |
化学、技術ライティング | 医学、健康 | 社会科学、行動科学、心理学 |
Chicago University of Chicago Press |
CSE Council of Science Editors |
MLA Modern Language Association |
The Chicago Manual of Style | Scientific Style and Format: The CSE Manual for Authors, Editors, and Publishers | MLA Handbook for Writers of Research Papers |
さまざまな分野に幅広く適用可 | 科学系の論文に幅広く適用可 | 人文、文化、文学 |
各スタイルガイドの目的は共通しており、分かりやすく正確で、威厳が感じられる論文となるよう書き方のルールを示すことです。しかし、内容は大きな違いあるいは微妙な違いなど、それぞれに異なります。いくつかの例を見てみましょう。
各スタイルガイドに見られる明らかな違いは、数の表記方法に顕著に表れています。数を書くときのルールには、各スタイルガイドに共通するものもあります。たとえば、センテンスの冒頭に数がくるときにはフルスペリング(文字)で記載する、単位記号とペアで記載するときには必ず数字(例:アラビア数字)を用いる(”five km”ではなく“5 km”)、などです。しかし、一続きにつながるテキストの中で数について言及するときのルールには、大きな違いがあります。スタイルガイドの中には、数の扱いだけを取り上げた箇所が複数ページに及ぶものがあるほどです。これらのルールは、たくさんの数字が近接して含まれるテキストを書くときに非常に役立ちます。また、これらのルールに従えば、論文全体にわたって表記が統一されるので、読みやすさを高めることにもつながります。
各スタイルガイドによって、数の書き方がどのように異なるかを見てみましょう。
APA | Chicago | CSE |
The study area included 12 cities in three prefectures. One hundred and fifteen schools were sent surveys and 13,321 individual responses were collected. | The study area included twelve cities in three prefectures. One hundred fifteen schools were sent surveys and 13,321 individual responses were collected. | The study area included 12 cities in 3 prefectures. A total of 115 schools were sent surveys and 13 321 individual responses were collected. |
APAでは、10まではスペルアウトし、11以上は数字(アラビア数字)を使う。センテンスを数字で始めることはできず、冒頭ではスペルアウトしなければならない。5桁以上の数字はカンマを使って桁取りをする。 | hicagoでは、0から100までの数はスペルアウトするが、たとえば測定データのようにテクニカルなことを述べた箇所では数字を用いる。センテンスを数字で始めることはできず、冒頭ではスペルアウトしなければならない。また、数をスペルアウトするときに”and”は使わない。5桁以上の数字はカンマを使って桁取りをする。 | CSEでは、数量を表すときには可能な限り数字を用いる。他のスタイルと同様に、センテンスを数字で始めることはできないが、数字を使えるように表現を変更することが推奨されている。5桁以上の数字の桁取りには半角スペースを使用するが、地域的な慣習を優先させるように注記されている(たとえば、米国圏の読者の場合には桁取りにカンマを使う)。 |
さらに、各スタイルガイドの微妙な違いを見てみましょう。下記の例は、論文のタイトルがどのように変わるかを示したものです。
AMA | Long-term Changes in Decision to Treat X With Y |
AAMAでは、2つの言葉をつなげて1つの概念を表すためにハイフンでつないだフレーズの場合には、2つ目の単語の先頭は大文字にしない。4文字以上の長さがある前置詞の先頭は大文字にする。 |
MLA | Long-Term Changes in Decision to Treat X with Y |
MLAでは、ハイフンでつないだフレーズはすべて、2つ目の単語の先頭を大文字にする。前置詞はすべて、文字数に関係なく、小文字にする。 |
ACS | Long-term Changes in Decision To Treat X with Y |
ACSでは、2つの言葉をつなげて1つの概念を表すためにハイフンでつないだフレーズの場合には、2つ目の単語の先頭は大文字にしない。前置詞はすべて小文字にする。to不定詞(to+動詞)の場合は、toの先頭を大文字にする。 |
ジャーナルや出版社の多くは特定のスタイルガイドを基に、それぞれに特有なニーズに合わせて微修正を加え、独自のスタイルガイドを設けています。そのため、ターゲットジャーナルが決まっているときには、スタイルガイドよりも、そのジャーナルが規定するスタイルを優先させて論文を書くことが重要です。もし、ジャーナルのガイドラインに規定がない場合には、代わりに該当分野の一般的なルールに従うようにしましょう。
最後に、せっかく書いた論文の校正を分野に精通しない人に頼んでしまったら、これまでのハードワークは一瞬にして無駄になってしまうでしょう。ThinkSCIENCEのエディターは該当分野のルールを熟知していますので、安心してご依頼いただけます。
最近の特集記事で、国際会議で発表するときに、聞き手と共通した知識を発表の中にうまく取り入れることで、効果的にコミュニケーションが取れることを取り上げました。そのことは、論文の読者との関係においても非常に重要な要素であり、共通した知識を取り入れることよって、論文に威厳が感じられるようになるだけでなく、読者にとってより理解しやすいものになります。
専門知識を有する読者に向けて論文を書くときには、専門性が極めて高い用語、あるいは新しい用語の定義だけを説明するように心掛けましょう。基礎的な用語まで説明してしまうと、読者のことをよく知らない、執筆経験の浅い著者だと思われるかもしれません。反対に、あまり専門知識のない読者に向けて論文を書くときには、どの用語に説明を付けるかを慎重に考えなければいけません。あまりに多くの専門用語(普通の人には意味がわからないような用語)を使いすぎると、伝えようとしているメッセージは読者にうまく理解されないでしょう。専門用語の多用は誤解につながり、難解すぎて論文を最後まで読んでもらえなくなるかもしれません。
Remember that dissertions or theses tend to have more citations, whereas research papers and reports tend to limit the number of citations used.
威厳を感じるような論文を書くためには、研究の動機や研究結果が示唆する意味を、先行研究を参照しながら、論文の文脈に組み入れることが重要です。先行論文を引用することは、その分野の知識があることを示しますが、ここで重要なのはその引用のバランスです。引用があまりに少なすぎる、あるいはあまりに多すぎると、知識が浅いのではないか、という印象を与えてしまうかもしれません。ちょうどよい引用のバランスは、原稿のタイプやターゲットにする読者によって決まります。
学位論文を書く目的は、その分野について、学位を授与されるに十分な知識があるということを示すことです。よって、このようなタイプの論文は引用数も必然的に多くなります。研究論文の場合は、知識のある読者に内容を伝えることが目的です。通常は分野の専門家が対象となりますが、彼らはすでに同等の知識をある程度もっています(上記項目3をご参照ください)。このような読者には、関連性の高い重要な箇所を見てもらうだけで、メッセージが十分に伝わらなければなりません。自分が伝えようとするメッセージに焦点を当てながら、何を引用すべきかを決めましょう。
重要なポイントを支持するような最新の研究を引用するように心掛けましょう。しかし、むやみにたくさんの文献を挙げる必要はありません。同じ結果が複数の研究で報告されているのであれば、例として1~2文献を引用するだけで十分です。あるいは、それらすべての研究を考察しているレビュー研究を引用するのも一案です。
最後に、本文中の引用については、対象となるセンテンスの最後にまとめて引用を付けるのではなく、センテンスの中でもっとも関連性のある部分の近くに、それぞれの引用を付けましょう。そうすることで正確性が高まり、読み違いを防ぐことにもつながります。
下記の文章を比較してみましょう。
These findings were subsequently confirmed in mice, dogs, and humans [4-6].
These findings were subsequently confirmed in mice [4], dogs [5], and humans [6].
最初の文章は、3つの研究のそれぞれが、4つのモデルすべてを検証したのか、1つのモデル、あるいは2つ、3つのモデルを検証したのかが曖昧です。2つ目の文章では、どの研究がどのモデルを検証したのかが読者に明確に伝わります。
威厳のある文章を書くことだけが、優れたライターであるということにはなりませんが、ここにご紹介したヒントが論文を書くときのお役に立てば幸いです。
もっとライティングスキルを高めたい、たとえば、分かりやすく、簡潔で、正確性が高く、倫理的にも健全であるような文章を書くための方法を知りたい、という方のために、ThinkSCIENCEでは分野に合わせたグループあるいは個人単位のワークショップやセミナーを開催しています。対面による直接指導とインターネットを経由したリモート指導のどちらでも対応いたします。プログラムについて詳しくお知りになりたい方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。なお、参加できない方には、EditingPLUSサービスをご用意しています。