
出版は研究の単なる最終ステップではありません。研究成果をどのような形で公開するかによって、読者のアクセスのしやすさだけではなく、研究分野への影響や国際的な知識体系への貢献のあり方が大きく変わります。一方で、学術出版が急速に変化する中、現在の著者たちには、これまでにないほど多様な選択肢が与えられています。

出版は研究の単なる最終ステップではありません。研究成果をどのような形で公開するかによって、読者のアクセスのしやすさだけではなく、研究分野への影響や国際的な知識体系への貢献のあり方が大きく変わります。一方で、学術出版が急速に変化する中、現在の著者たちには、これまでにないほど多様な選択肢が与えられています。
従来の購読型ジャーナル、完全オープンアクセスジャーナル、またはSubscribe-to-Open (S2O)のような新しいハイブリッド型・共同型モデルのジャーナルのどれを選ぶべきでしょうか?こうした選択肢を理解することは、論文の可視性(見つけやすさ、認知度)を最大化し、研究助成機関の要件を満たし、コストを適切に管理するうえで不可欠です。そして、最適な選択は、研究者や研究内容によっても大きく変わる可能性があります。
この特集記事では、著者が利用できる主要な出版モデルについて簡単に概説します。それぞれのメリットとデメリットについて説明するとともに、各自の目標、想定する読者層、利用可能なリソースに応じて最適な選択をするために考慮すべき点についても説明します。
従来型の出版は、多くの分野や影響力の大きい権威あるジャーナルにおいて、依然として主要な出版モデルです。このモデルでは、出版社が査読、編集、配信を担い、その運営費は主に図書館や個人が支払う購読料を財源としています。論文の著者は通常、論文掲載料(APC)を支払う必要はありません。
この10年間で、オープンアクセスをはじめとする新たな出版モデルを推進する動きが強まる一方で、出版コストの高騰や図書館予算の縮小により、従来の購読型モデルの維持が困難になってきており、アクセスが制限されたり契約が打ち切られたりするシリアルズ・クライシス、いわゆる「学術雑誌の危機」と呼ばれる現象が生じています。
研究助成機関や政府によるオープンアクセス推進の動きは、購読型モデルからの移行を加速させています。しかし、従来型のジャーナルは依然として高い評価と名声を維持しており、高いインパクトファクターを誇る権威あるジャーナルの一部は、現在もなお購読型モデルで運営されています。また、シュプリンガー・ネイチャーをはじめとする大手出版社はオープンアクセス型のジャーナルの拡充を進めていますが、多くの出版社は依然として幅広い購読型ジャーナルのポートフォリオを維持しています。
一部の研究分野では、インパクトファクターが高く評価が確立されているジャーナルほど、より権威があると認識される傾向があり、その多くは購読型モデルを採用しています。このような認識は、著者が論文の投稿先を選ぶ際の判断に少なからず影響を及ぼします。
オープンアクセス(OA)は、ペイウォール(有料コンテンツの壁)を取り払うことで、インターネットにアクセスできる人であれば誰でも掲載論文をすぐに読むことができるようにする出版モデルです。このモデルは、公的資金による研究の成果は広く一般に公開されるべきであるという原則に基づいています。OAにはいくつかのモデルがありますが、著者が遭遇する可能性が高いのは、次の二つの主要モデルです。
ゴールドOA:論文は、完全なOAジャーナルに掲載されるか、または、出版社のプラットフォーム上でOAとして公開されます。ほとんどのゴールドOAジャーナルは、著者または研究助成機関が支払うAPCによって運営されています。
グリーンOA:著者は自身の論文の公開可能な版を所属機関のリポジトリや分野別リポジトリに登録します。多くの場合、エンバーゴ期間(出版社が定める一定の公開猶予期間)終了後に、リポジトリ上で公開されます。
2024年にScientometricsに掲載された論文をはじめとする数多くの研究によると、OA論文は有料アクセス制限のある論文よりも頻繁に引用され、より多様な分野・研究者から引用される傾向があることが示唆されています。さらに、OAは教育者、政策立案者、専門家たちが垣根なく研究成果にアクセス可能になることから、より広範な社会的影響を促すことが報告されています。
科学、技術、医学分野では、プランS(研究成果の即時OA公開を推進する国際的な取り組み)や米国国立衛生研究所(NIH)のパブリックアクセス方針といった研究助成機関の方針による後押しもあり、OAの導入率が高くなっています。一方、社会科学や人文科学では、研究資金の構造や出版社の慣行の影響を受け、OAの普及は比較的穏やかです。しかし、分野を問わずOAへの関心は高くなっており、とりわけゴールドOAモデルへの関心が高まっています。
ただし、OAの選択に問題がないわけではありません。十分な資金を持たない著者、特に低・中所得国の研究者にとって、APCが障壁になる可能性があります。また、OAモデルを悪用するハゲタカジャーナルの台頭による懸念もあり、慎重なジャーナル選択が求められます。
現在、多くの従来型のジャーナルがハイブリッドOAを導入しています。これは、著者がAPCを支払うことで、購読型ジャーナル内でも個々の論文をOAにできるモデルです。この柔軟性により、研究者が実績と権威のあるジャーナルに論文を掲載しつつ、研究助成機関から課せられたOAの要件を満たすことが可能になります。
しかし、ハイブリッドジャーナルのAPCは完全OAジャーナルよりも高額になる傾向があります。また、出版社が購読料とAPCの両方の収益を得る「二重取り」が批判されています。実際、一部の研究助成機関は、ハイブリッドジャーナルのAPCに助成した資金を使用することを禁止しています。例えば、プランSは完全かつ迅速なOAへの移行を促進させるためにcOAlition Sによって開始された取り組みであり、参加する助成機関に対して、ハイブリッドジャーナルのAPCの支払いを明確に拒否することを求めています。
Subscribe-to-Open(S2O)は、APCを著者に課すことなく、購読型ジャーナルをOAへ移行させることを目的とした新しい取り組みです。このモデルでは、図書館が継続的に購読料を支払います。そして、十分な数の図書館が購読契約を更新または新規に契約することにより必要な収益目標が達成されると、その年のジャーナルのコンテンツがOAとして公開されます。この共同出資型の方法は、著者に費用を転嫁するのではなく、購読機関全体の継続的な支援に依存しながら、従来のOA出版が読者にもたらす多くのメリットを維持することを目的としています。
英国王立協会は、2026年にジャーナル8誌のS2Oへの移行を予定しており、米国微生物学会は6誌にS2Oモデルを採用しました。EDP SciencesやDe Gruyterなどの他の出版社もS2Oを試みています。
S2Oの利点には、APCの撤廃により著者の経済的障壁を取り除くこと、図書館の支援を通して持続可能な収益を維持すること、そして恒久的OAのコンテンツを提供することが挙げられます。しかし、このモデルの成功は図書館による継続的な支援に依存しており、図書館の予算削減の影響を受けやすい可能性があります。また、比較的新しいモデルであることから、長期的な持続可能性に関するデータは限られています。
学術出版の変革に寄与するその他の新しいモデル:
ダイヤモンドOAおよびプラチナOA:これらのモデルの多くでは、著者と読者に費用負担を求めない代わりに、大学などの研究機関、コンソーシアム(共同事業体)、学術団体などが資金を提供しています。非常に公平性の高いモデルですが、APCの収益なく運営を維持するためには長期的な資金確保が不可欠であるため、まだあまり普及しておらず、持続可能性が課題となる可能性があります。
Read & Publish契約:図書館またはコンソーシアムと出版社との間で結ばれる契約で、有料コンテンツの購読アクセス(read)と、所属する著者が個別にAPCを支払うことなくOAで論文を出版できる権利(publish)を組み合わせたモデルです。つまり、図書館またはコンソーシアムが所属著者の閲覧と出版の両方をカバーする契約費用を出版社に支払います。これらの契約は通常、特定のジャーナルまたは出版社ごとに設定され、機関またはコンソーシアム単位で交渉が行われます。このような契約を結んでいる機関に所属する著者に限られますが、APCを個別に負担することなくOA出版が可能になります。
著者が出版モデルを選択する際には、自身の研究を適切な読者に届けるため、現実的な制約を踏まえながら、いくつかの点を考慮する必要があります。
予算:APCやその他の出版費用に充てることができる助成金や所属部門予算を確認し、その範囲内に収まる出版モデルを優先して選びましょう。
普及・発信の重要性:自身の研究成果を、どの程度広く、またどの程度迅速に共有する必要があるかを考慮しましょう。例えば、影響力が大きい研究や時間的緊急性のある研究は、完全OAが有効な選択肢となる場合があります。
助成機関の要件:研究資金を提供する機関がOA出版を義務付けているか、その場合はどのOAモデルやライセンスが認められているのかを確認しましょう。
影響力と可視性:研究内容や目的に応じて重要であれば、研究成果のリーチ(読者層への到達度)や学術的評価・名声を考慮して、影響力と定評のあるジャーナルを選定しましょう。ただし、影響力のあるジャーナルはOAの選択肢が限定される可能性や、APCが高額になる場合があります。
所属機関による支援:所属機関が提供している支援制度(S2Oへの参加、APCの助成、Read & Publish契約など)を確認しましょう。これらの制度を利用することで費用負担を抑えられるだけでなく、投稿できるジャーナルの選択肢が広がる可能性があります。
ご自身の論文を従来の購読型モデルで出版するか、あるいはオープンアクセスで出版するかという選択は重要な判断であり、さまざまな要因に左右されます。出版を取り巻く状況が変化し続ける中、この選択は今後さらに複雑になる可能性があります。ThinkSCIENCEは、これまで数多くのお客様のジャーナル選択をサポートしてきました。出版に関するご質問やご相談などございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。