研究者の影響度は様々な方法で評価することができます。中でも、影響度を数値で表す方法は、簡単な計算で便利な評価基準を得られるため、広く用いられています。しかしながら、このような測定基準はデータ操作の影響を受けやすく、必ずしも研究者の本当の影響力を知る指標とはなりません。今回の特集記事では、研究者の影響度を数値を使わずに可視化する方法として、研究者間のつながりを示すいくつかのネットワークについて考察します。
研究者の影響度は様々な方法で評価することができます。中でも、影響度を数値で表す方法は、簡単な計算で便利な評価基準を得られるため、広く用いられています。しかしながら、このような測定基準はデータ操作の影響を受けやすく、必ずしも研究者の本当の影響力を知る指標とはなりません。今回の特集記事では、研究者の影響度を数値を使わずに可視化する方法として、研究者間のつながりを示すいくつかのネットワークについて考察します。
最近では引用ネットワークを調べる試みが、ますます一般的になってきています。引用ネットワークは論文の引用関係を図に表したもので、論文を丸(点)で表し、それらの引用関係を線で結んだものです。例えば、Scholarly Kitchenの最近の記事で、Phil Davis氏はこのタイプの図を用いて、インパクトファクターをつり上げるために、ある種の癒着が存在する可能性を示しています。この記事でこのような可視化の手法が用いられたのは、研究者や論文のつながりの影響を示すのに適した方法だからです。
研究者がこれと同じ考え方をうまく利用すれば、自分の研究がどのくらいの影響力を持ち、どのような位置づけにあるかをよく理解することができ、またそれを人に示すこともできます。これは、Web of Scienceが提供している基本機能の1つ(ユーザー登録が必要)であり、研究者のためのいくつかのソーシャルメディアサイトでも試みられています。このソーシャルネットワーキングの活用について、The Open University UKの研究者Katy Jordan氏がFirst Mondayにレポートを発表しています。
研究者自身が引用ネットワークを作成するには、まず、自分の論文を引用したことのある全ての著者をリストにします。これは手作業でもできますし、Web of ScienceやMendeleyなどのサービスを利用することも可能です。このリストに含まれる著者とその文献が1次引用群となります。この1次引用群が一般に考えられている引用文献に相当します。
次に、この1次引用群について上記と同じプロセスを繰り返し、1次引用群を引用している著者のリストを作ります。この2つ目のリストに含まれる著者とその文献が2次引用群となり、通常は1次引用群より規模は大きくなります。このプロセスを繰り返すことで、より離れた位置にいる著者を見つけ出すことができ、他の研究と比べて自分自身の研究が潜在的にどこまで広がりをもってつながっているかを知ることができます。
引用ネットワークの中で密につながっているグループは、主にそのグループ内の著者間で引用が行われていることを示します。このグループは、対象となる研究分野グループと一致することが多いのですが、Scholarly Kitchenの記事に指摘されているように、「引用の輪(内輪での引用)」を示している可能性もあります。
共同研究や論文の共同執筆は、人文系ではそれほど多くはみられませんが、その他の分野では一般的に行われています。著者ネットワークを作成する方法は引用ネットワークと同じですが、引用論文ではなく、共著論文があるかどうかの関係を示します。
著者ネットワークの考え方は数学の分野で進んでおり、 たとえば、Erdős numberによく反映されています。このエルデシュ数は、ある研究者から、多産な数学者であるPaul Erdős氏(共著が1,000報を超え、500人以上の共同研究者を持つ)につながるまでに必要な接続線を数値化したものです。
将来、大規模データセットが入手可能になり、コンピュータの計算力がさらに向上すると、また新たなタイプのネットワークが加わり、普及していくでしょう。それらのネットワークから得られる情報をうまく利用することで、研究コミュニティー内における研究者個々の役割がより明確になり、ただ単に論文を発表するだけではなく、後進の指導、ピアレビュー、科学的提唱など、研究を推進するための様々な活動に深く関与している研究者の努力が、よりはっきりと認識されるようになるでしょう。